相続に関するQ&A 遺産分割について

遺言書があるかどうかどのように確認したらよいでしょうか?

遺言書の種類によって、確認方法が異なります。

  • 公正証書遺言
    原則として昭和64年(1989年)1月1日以後に作成された遺言は、日本公証人連合会でデータベース化され、全国の公証役場で検索できるシステムとなっています。
    公証役場に照会をすれば、遺言の有無や保管している公証役場を教えてもらうことができます。
  • 自筆証書遺言
    公正証書遺言のような仕組みがないので、遺言書が収められている可能性の高い場所(部屋、机、貸金庫など)を探してみましょう。顧問弁護士や取引先銀行に遺言書を預けている場合や、法務局への遺言書預かり制度を利用している場合もあるかもしれません。
    なお、自筆の遺言は家庭裁判所での開封手続きが必要です。見つけた遺言をくれぐれもその場で封を開けて読まないようにしましょう。

遺言がない場合、遺産分割はどのようにすればいいですか?

基本的には相続人全員の話し合いで決めます。
遺産分割の前提として、以下の3つを確定する必要があります。

  • 相続人の確定
    被相続人の戸籍謄本を出生までさかのぼって取り寄せ、誰が法律上の相続人であるか確定します。相続人全員が参加していない遺産分割協議は無効になってしまいます。
  • 各相続人の相続分の確定
    ①で相続人が確定すると、各相続人の法定相続分がわかります。
    ただし、相続人全員が合意すれば、法定相続分に関係なく自由に遺産を分割することができます。

  • 遺産の範囲と評価の確定
    対象となる相続財産がわからないと分けること自体ができませんので、被相続人の遺産を調べて確定します。
    また、遺産を金銭に評価してどのように分けるかを話し合うことで、公平な分割が可能になります。


  • ①~③が確定したら、後は相続人全員の話し合いで、遺産をどのように分けるかを決定します。
    この話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所で調停や審判などを行うことになります。

遺産分割にはどのような方法がありますか?

遺産を分割する方法には、現物分割、代償分割、換価分割、共有分割の4つがあります。

  • 現物分割
    遺産をそのまま相続人に割り振る方法です。
    たとえば、不動産は長男、預金は長女、有価証券は次女がそれぞれ相続するといった方法です。

  • 代償分割
    1人または数人の相続人で遺産を相続し、残りの相続人に対して代償金を支払う方法です。
    たとえば、数人では分けづらい不動産を長男が相続し、長男が次男と長女にそれぞれ1000万円ずつ現金(代償金)を支払う方法です。

  • 換価分割
    遺産を金銭に換価して、その換価金を分配する方法です。現物分割等が困難であったり、相続人が金銭での分配を望んでいる場合に適しています。

  • 共有分割
    遺産を共同相続人の全部または一部の者の共有とする方法です。現物分割や換価分割が困難で、代償金の用意もできない場合などに用います。

遺産を分割する際、遺産はどのように評価しますか?

相続開始時から遺産分割時までは長期間にわたることが多く、その間に財産価値が変わってしまうこともあります。そのため、公平になるように、遺産分割時点での評価を用いて財産を評価することになっています。
しかし、評価方法については明確な決まりがあるわけではありません。
預貯金や上場株式のように評価額が明確なものはその価額に従えばよいのですが、不動産や非上場株式のように一概に評価を決定できないものもあります。
たとえば不動産は、「固定資産税の評価額」、相続税を計算するための「相続税評価額」、不動産会社が算出する「取引査定金額」、不動産鑑定士が算出する「鑑定評価額」などを参考に、相続人間でよく話し合って合意を目指すほかありません。
相続人間で合意ができない場合には、最終的には家庭裁判所の遺産分割調停または審判で確定することになります。

話し合いがまとまったら遺産分割協議書を作成したほうがいいですか?

話し合いがまとまりましたら、遺産分割の内容を明記した遺産分割協議書を作成しましょう。
分割協議書は、預貯金などの解約、不動産の名義変更、相続税の申告などの手続きの際に提出が求められます。また、後々の紛争を防ぐ観点からも大事な書類です。

一般的に分割協議書には
・被相続人の氏名、本籍、亡くなった時の住所、死亡年月日
・遺産の内容と、遺産を相続する人の氏名、相続する割合
を記載します。
必要に応じて、代償金の支払いや葬儀費用の負担、遺産を管理していた際の費用の精算、後になって判明した遺産の取り扱いについても書いておくとよいでしょう。
最後に、作成した日付を記載して、相続人全員が署名し実印で押印してください。実印であることを証明するために、印鑑登録証明書も添付して、一緒に保管しておきましょう。

遺産の調査に手間取っています。判明した遺産だけを話し合いで分けることはできますか?

原則として、すべての遺産を調査し、遺産の範囲を確定したうえで、遺産分割協議を行います。
しかし、調査に時間がかかるだけでなく、相続税の納付のために一部の不動産を換金したい場合や、一部の遺産についてのみ分割方法が決まらない場合などもあり、確定している範囲で分割協議を先行したいこともあるでしょう。
そのような場合は、遺産の一部の分割協議であること、その他の遺産については後日遺産分割協議を行うことなどを明示したうえで、複数の分割協議を行うことは可能であるとされています。
ただ、二度手間になってしまうことは避けられませんので、特段の事情がない限り避けたほうがよいでしょう。

分割協議後に新たな財産が判明した場合、分割協議をやり直さなければなりませんか?

分割協議後に知らなかった遺産が出てきたとしても、すでに成立した遺産分割協議は原則として有効です。
成立した遺産分割協議書で、「後日判明した遺産の取り扱い」を定めている場合はその定めに従い、定めていない場合には、新たに判明した遺産を対象に、追加の分割協議を行います。
もっとも、一部の相続人が遺産をわざと隠していたとか、判明した遺産が遺産全体の中で大きな割合を占める価値があって、成立した遺産分割協議に影響が出てくる時は、例外的にすでに成立した遺産分割協議が無効であることを主張できる場合もあります。

遺言がありましたが、遺産分割をすることはできますか?

遺言があっても、相続人全員(遺贈がある場合には受遺者も含む)の合意があれば、遺言と異なる遺産分割をすることは可能です。
ただ、遺言で遺言執行者が指定されている場合には注意が必要です。というのも、遺言執行者には遺言内容を実現する義務があるからです。ですので、相続人(と受遺者)が遺言内容と異なる分割を求め遺言執行者がこれに同意すると、遺言執行者としての義務に抵触するとも考えられますが、相続人全員や受遺者の同意がある場合は、通常、遺言執行者は責任は問われないと考えられます。

長男が自宅を相続する代わりに母親の介護をする条件で遺産分割協議が成立しましたが、長男が母親の介護をしません。遺産分割協議を取り消せませんか?

遺産分割は遺産の分け方を決めるものですので、誰かに何らかの義務を負わせる内容は遺産分割協議の成立そのものには影響を与えません。
そのため、遺産分割協議において決まった義務を行わないことを理由として遺産分割協議を解除することはできないことになります。
ただし、相続人全員の合意によるのであれば、遺産分割協議をいったん解除して再度話し合いをすることはできます。

遺産の中に賃貸アパートがあります。この家賃収入は誰が取得することになりますか?

相続開始から遺産分割協議がまとまるまでの間、遺産の賃貸アパートから生じる家賃収入は遺産とは別の扱いとなり、各相続人がその法定相続分に応じて分割して単独で取得します。
遺産分割協議によって誰か1人がそのアパートを取得することになったとしても、話し合いがまとまるまでの間の家賃は、法定相続分に応じて各相続人が単独で取得することになります。
ただし、遺産分割協議で相続人全員が合意すれば、別の分け方にすることもできるとされています。たとえば、アパートは長男が、相続開始から遺産分割協議成立までの家賃収入は次男が取得する、といった分け方も可能です。

「寄与分」という制度について教えてください

被相続人の生前に被相続人に対して何らかの貢献をしてきた相続人と、他の相続人との公平さを図るために設けられた制度のことです。 
被相続人の事業を手伝ったり、財産を提供したり、療養看護に努めたりしてきたことによって、被相続人の財産の維持または増加に特別の寄与をしたと認められる場合は、その程度に応じた額が「寄与分」として相続分に加算されます。
従来は相続人だけに認められていましたが、法改正によって寄与分を主張できる人の範囲が親族(6親等内の血族と3親等内の姻族)にまで広がりました。
この相続人以外の方が主張できる寄与分を「特別寄与料」といいます。

「寄与分」とは、どのような場合に認められるのでしょうか?

寄与分が認められるには、下記の点が必要です。

  • 自らの寄与であること

  • 被相続人との身分関係に基づいて、通常期待される程度を超える特別の貢献であること

  • これによって被相続人の財産が維持された、または増加したこと


そのため、親族ではない第三者による経済的援助や、夫婦・親子間における通常の範囲内の介護や家事労働、財産の増加に関係しない精神的な援助などについては、寄与分として認められません。

寄与分の額は、どのようにして決まるのでしょうか?

寄与分の額は内容によって異なります。明確な基準があるわけではありませんが、下記が目安になります。(※「裁量的割合」とは個別事案に応じて判断される割合のことです)

  • 提供した労務を基準に算定する方法
    寄与者が得られたであろう給付額 × (1-生活費控除割合) × 寄与期間

  • 相続財産の増加を基準に算定する方法
    相続財産の総額 × 寄与相続人が相続財産の形成に貢献した割合

  • 金銭を贈与した場合
    贈与当時の金額 × 貨幣価値変動率 × 裁量的割合

  • 財産を無償で使用させた場合
    相続開始時の賃料相当額 × 使用期間 × 裁量的割合

  • 療養看護型
    付添介護人の日当額 × 日数 × 裁量的割合

「特別受益」という制度について教えてください

相続人の中に、被相続人から遺言によって財産の贈与(遺贈)を受けたり、生前に贈与を受けたりした方がいる場合、その贈与等を「特別受益」として、計算上、贈与した財産を相続財産に一度戻し(持ち戻し)、それらの額を踏まえて相続分を算定する制度です。
これは、特別受益を受けた方が共同相続人の中にいた場合、法定相続分通りに財産の分け方を決めてしまうと、不公平な相続になってしまうことを避けるためです。
ただし、被相続人が遺言などによって、相続財産への持ち戻しを免除する、つまり生前の贈与等を考慮しなくていいと意思表示した場合には、「特別受益」は考慮されず、持ち戻しを行う必要はありません。(ただ、共同相続人の遺留分を侵害する場合は、遺留分侵害額請求の対象になります。)

どのようなものが「特別受益」として認められるのでしょうか?

被相続人の相続人に対する遺贈、婚姻や養子縁組のための費用、生計の資本などの贈与が「特別受益」に該当します。
具体的には、ある程度まとまった額の持参金、支度金、結納金、嫁入り道具や、住宅の購入資金、開業資金の援助、などです。

一方で、挙式費用は「特別受益」に該当しません。また、学資の支出も特別に多額でない限り「特別受益」には該当しないとされています。

なお、特別受益は、贈与時や遺産分割時ではなく、相続開始時を基準に評価されますので、過去の金銭の贈与などは相続開始時の貨幣価値に換算して評価します。

生前に贈与された財産が、相続開始時に残っていなくても、特別受益に該当するのでしょうか?

贈与された物件が、受贈者の行為によって壊れたり、逆に価値が上がったりした場合であっても、相続開始時に原状のままであるものとみなして算定することが定められています。

したがって、贈与を受けた物を受贈者が売却しても、特別受益に該当し、贈与を受けた時のまま残っているとみなして、相続開始時の価値を評価することになります。受贈者が修繕や改築を行うなどして物件の価値が上がったような場合も同様です。

これに対し、天災や延焼など受贈者の行為によらずに滅失・毀損してしまった場合は、特別受益はなくなる、あるいは毀損後の状態に基づいて相続開始時を基準に評価されます。