執筆日:2021.04.26

所有者不明土地をめぐって①所有者不明土地問題とは?

司法書士

島 武志
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こんにちは、司法書士の島です。

皆さんは「所有者不明土地問題」をご存じでしょうか?

所有者不明土地とは「不動産登記記録などにより、所有者がただちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地」のことをいいます。

具体的には、
・登記記録が更新されないなどの理由から、土地の所有者の特定が難しい
・所有者は特定できるが、所有者の住所などがわからない
・登記簿上の所有者が亡くなっていて、その相続人が多数になっている
などの土地です。

この所有者不明土地の面積が、2017年の所有者不明土地問題研究会の報告によると、2016(平成28)年時点で約410万haあり、九州の面積(約367万ha)以上に存在するそうです。

九州を上回る面積の土地の所有者が誰なのかわからないとは、衝撃的ではありませんか?

所有者がわからない土地が引き起こす問題

こうした所有者不明土地は、様々な場面で問題を引き起こしています。

たとえば、
・災害後の復興で道路を通したいが、土地の所有者が誰だかわからないため、復興が進まない。
・買収を予定している土地の所有者がわからない、あるいは相続人の数が多く手続きに時間がかかり、計画が思うように進められない。
・固定資産税が請求できない。
・隣の空き地に雑草が生い茂り、苦情を言いたいが誰に言っていいのかわからない。自分たちで草を刈るにも、誰の許可を得たらいいのかわからない。
・近所のビルが廃墟になっていて、治安が悪くなりそうで不安。
などなど・・・ 

行政の手続きや経済活動に支障が出ているだけでなく、地域住民の日常生活へも影響が及んでいます。

なぜこんなことになってしまっているのでしょうか?

なぜ所有者がわからない土地が発生するのか?

現在の法律では、土地を取得しても登記手続きは義務づけられていません。そのため、登記簿上に記載されている所有者と現実の所有者が異なることがあります。

土地を購入した場合は、買主は自分の権利を守るため、すぐに登記を行って自分の名義に変更します。しかし、相続により家族・親族から土地を受け継いだ場合は、登記手続きを行わないことが少なからずあります。
特に、受け継いでもメリットを感じない不動産(山林や耕作放棄地など)は、費用をかけてまで名義変更しようというインセンティブが働きづらいでしょう。

また、住所や苗字が変わった場合の登記手続きも義務ではありません。
したがって、登記簿上の住所や苗字が、所有者の現在の住所や苗字と一致していないことが多々あります。

こうして、相続登記や住所変更登記を放置している間に、さらに相続が発生する。
これが何度か繰り返されると、立派な「所有者不明土地」のできあがりです。

所有者不明土地問題解消に向けて

この「所有者不明土地問題」に、国も手をこまねいているわけではありません。解消に向けた動きが本格化しています。

その一つとして、相続登記や住所変更登記の義務化を定めた民法など関連法の改正案が国会に提出され、4月21日に可決・成立しました。
メディアで報道されましたので、聞いたことがあるという方もいらっしゃるでしょう。

次回以降、法律の改正の内容や、そのほか国が行っている対策について、詳しくお伝えしていきます。ぜひご覧ください。

なお、現時点で、相続人間で遺産分割協議をしたものの登記までは行っていない、または長らく相続登記をしないままの土地がある、という方がいらっしゃいましたら、お早めに私たちにご相談ください。