執筆日:2021.03.11

司法書士事件簿3「介護は相続で報われない⁈」(その2)

司法書士

島 武志
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こんにちは。司法書士の島です。
今日も、前回からの「寄与分」のお話のつづきです。

主人公は、最近お父様を亡くされた信玄さん。
父親が亡くなるまで10年間、献身的に介護をしてきたのに、介護を手伝わなかった弟たちに「相続は3等分だ」と主張されて納得がいかず、相談にいらっしゃいました。

【相続関係人】
父  信虎 亡くなる10年前に脳梗塞で倒れ、以後要介護状態
長男 信玄 父親と同居。父が倒れてから父を引き取り介護を引き受ける
次男 信繁 遠方居住のため、年1回程度しか顔をみせない
三男 信実 海外勤務。父の葬儀の際に10年ぶりに帰国
遺産 預貯金 3000万円 ※自宅は売却済み
司法書士 島
「わかりました。信玄さんのお父様に対する介護などの貢献を遺産分割に反映させる制度があります。それが「寄与分」の制度です。
信玄さんがお父様の「財産の維持または増加」について「特別の寄与」をしていた場合には、「寄与分」が認められることがあります。寄与分が認められると、寄与分が認められた分だけほかの相続人より財産を多く相続することができます。」
長男 信玄
「もっと簡単に説明してもらえますか?」
司法書士 島
「信玄さんがお父様の介護をしたことで、介護施設に入所する必要がなくなったり、有料の介護サービスを利用しなかった場合、その分お父様の財産が減らなかったことになります。信玄さんのおかげで使わずに済んだお金の分、信玄さんの相続財産を増やしましょうよ、という制度です。」
長男 信玄
「それはいいですね。それでお願いします。」
司法書士 島
「ただ、ですね。この寄与分についてはいくつか決まりがあります。つまり...」

まず、寄与分が認められるためには
①特別の寄与をしたこと
②それによって亡くなった方の財産の維持又は増加が認められること
が必要です。

「特別の寄与」とは、親子として通常期待される程度を超える行為を指します。したがって、「親の食事の世話をしていた」とか、「病院の送り迎えをしていた」では通常の親子なら当たり前の行為だとされ、「特別の寄与」に該当しません。
今回のケースのような、相続人が被相続人の療養介護を行った「療養介護型」の場合に「特別の寄与」があったといえるには、
 ・療養看護の必要性があるか
 ・特別の貢献といえるか
 ・無償でおこなっていたか
 ・継続しておこなっていたか
 ・介護に専念したといえる程度か
といった要件を満たす必要があります。

司法書士 島
「なので、まずはお父様のお身体の状態と信玄さんの介護負担、それによる金銭的な節約の程度などを確認しなければなりません。そのうえで、遺産分割協議の中で弟さんたちにその寄与分を認めてもらう必要があります。」
長男 信玄
「だいぶ大変ですね...」
司法書士 島
「そうですね。残念ながら実際に寄与分が認められるにはいくつものハードルがあります。
最初から寄与分の主張をあきらめる必要はありませんが、実際に通常の介護をしていたぐらいですと、寄与分が認められるケースは少ないですね。また、寄与分が認められても、金銭として算定したときに、納得できる額になるのかという問題もあります。」
長男 信玄
「わかりました。そこまでする必要があるか、考えたほうがいいということですね。」
司法書士 島
「そうですね。弟さんとの話し合いがまとまらなけば、家庭裁判所の調停という制度を利用することもできますが、介護をしていた方の苦労はしていない人にはなかなか伝わりづらいので、手間と時間ばかりかかってしまう可能性もあります。」
長男 信玄
「少し考えてみます。あきらめることも一つの解決方法なんですね。あまりに不公平な気がします。」

この日、信玄さんは肩を落としてお帰りになりましたが、後日、弟さんたちに対して寄与分の話をし、その結果、信玄さんが少し多めに財産を貰うことになったとご報告をいただきました。

この寄与分の制度は、本来的には相続人の間の公平性や、被相続人のために貢献した人への救済を図るもので、積極的に主張すべきものです。
しかし、この制度は、要件が厳しいことから、認められるケースがそこまで多くないという現実があることに加え、相続人間の寄与に対する見解の相違から、争いの原因となることさえあります。
寄与分の主張をされる際には、まずは専門家にご相談ください。

なお、今回のケースでは、信玄さんが少し多めに相続できるような遺言をお父様が遺してくれればよかったので、生前にお父様にお会いできなかったのが悔やまれる事案でした。
****今回のコラム担当者****
司法書士 島武志
大学では経済学を専攻し卒業後は銀行に勤めるも、突如法律の分野に興味を持ち、退社の後、現在に至る。
30代までは夏はロードバイク、冬はスキーを趣味とし、比較的アクティブな週末を過ごすものの、40代への突入を境に仕事を言い訳に活動量が低下。
近年は狩猟免許を取得するなど、アクティブな自分を取り戻すべく奮闘中。
専門分野は相続、遺言、民事信託、不動産、企業法務など。