執筆日:2021.03.04

司法書士事件簿3「介護は相続で報われない⁈」

司法書士

島 武志
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こんにちは。司法書士の島です。

家族の誰かが亡くなって相続が始まった場合。
亡くなった方が遺言を遺していないと、相続人の間で話し合い(遺産分割協議といいます)を行うことになります。
この遺産分割協議がまとまらないと、いわゆる「争族」という状態に突入します。

今回は話し合いがまとまらない原因のひとつである「寄与分」についてお話します。
父親が亡くなって相続人が子供3人の場合は、3人で話し合いをして父親の遺産を3等分するならあまり問題なさそうですよね。
しかし、相続人の1人、例えば長男が亡くなった父親と長年同居していて、しかも亡くなるまで10年間、自宅で介護をしていたらどうでしょうか?
長男の立場に立ってみると、弟たちと同じだけしか相続できないとなると面白くないと思いませんか?

【相続関係人】
父  信虎 亡くなる10年前に脳梗塞で倒れ、以後要介護状態
長男 信玄 父親と同居。父が倒れてから父を引き取り介護を引き受ける
次男 信繁 遠方居住のため、年1回程度しか顔をみせない
三男 信実 海外勤務。父の葬儀の際に10年ぶりに帰国
遺産 預貯金 3000万円 ※自宅は売却済み
長男 信玄
「父が亡くなりまして、弟たちと遺産分割の話し合いをしているのですが、どうにも納得いかなくて相談に来ました。」
司法書士 島
「どうされました?」
長男 信玄
「父は10年前に脳梗塞で倒れました。一応回復はしたのですが、右半身に麻痺が残りましてね。母は他界していたので、麻痺の残る身体で一人暮らしは大変だろうということで、私が父を引き取って同居するようにしたんですよ。」
司法書士 島
「お父さんと同居するにあたって、弟さんたちと話し合いはされましたか?」
長男 信玄
「一応話し合いはしましたが、一人は北海道、一人は海外で暮らしているので、私が同居するか施設に入ってもらうかの2択でしたからね。施設に入ってもらうのも忍びないので同居することにしたんですよ」
司法書士 島
「そうですか。それは大変でしたね」
長男 信玄
「まあ、それはいいんですよ。長男ですしね。ただ、同居してから10年間、まがりなりにも父の介護をしてきたんですよ。こういう場合の相続手続きでも、弟たちと遺産は平等にしなければならないんですか?」
司法書士 島
「そんなことはないですよ。そもそも遺産分割協議では、相続人全員が納得すれば誰が何を相続するのかを自由に決めることができます。
もし弟さん達が遺産を貰わないといえば、信玄さんがお一人で全て相続することもできますよ。」
長男 信玄
「それが、2人とも3等分しろって言ってきましてね。それで納得できなくてこちらにお邪魔したんですよ」
司法書士 島
「そうなんですね。信玄さんとしては、お父様と同居したことや10年間介護をしてきたことの苦労はわかって欲しいですよね」
長男 信玄
「そうなんですよ。それをあいつ等に言っても、相続は平等だからと言って聞く耳もたないんですよ」
司法書士 島
「わかりました。信玄さんのお父様に対する介護などの貢献を、遺産分割に反映させる制度があります。それが「寄与分」の制度です。
ただ、ですね。この寄与分についてはいくつか決まりがあります。つまり...」

10年間の介護をねぎらう言葉だけでなく、対価として多めの相続分をもらって当然だと思うのが、介護した側の自然な感情ですが、介護していない兄弟との隔たりは大きいようです。
そんな信玄さんに「寄与分」を説明する私ですが、寄与分が認められるためのハードルが高いために歯切れが悪くなってしまいました。
このお話は長くなるので、また次回、じっくりと説明いたします。

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どんなことでもお話にいらしてください。
****今回のコラム担当者****
司法書士 島武志
大学では経済学を専攻し卒業後は銀行に勤めるも、突如法律の分野に興味を持ち、退社の後、現在に至る。
30代までは夏はロードバイク、冬はスキーを趣味とし、比較的アクティブな週末を過ごすものの、40代への突入を境に仕事を言い訳に活動量が低下。
近年は狩猟免許を取得するなど、アクティブな自分を取り戻すべく奮闘中。
専門分野は相続、遺言、民事信託、不動産、企業法務など。