執筆日:2021.02.10

遺言相談ファイル3「子どもが遠方に住んでいる」

司法書士

松永梨亜
この著者の他の記事
雪花がぱらぱらと舞ったある日の午後、AGORA相続サポートプラザに、高橋静男さん(70歳)、藤子さん(60歳)ご夫婦が相談にお見えになりました。

静男さん
「最近、終活という言葉を耳にして。自分は以前、脳梗塞もやっているし、妻とは10歳も年が離れているので、私が死んだあと妻が困らないようにしたいなぁと思いまして、ご相談に伺いました。」

松永 
「そうですか、寒い中、お見えいただいてありがとうございます。
具体的には今どのようなことがご心配なのですか?」

静男さん
「子供が三人いるのですが、皆、遠方に住んでいて仕事も忙しそうですし、これから先、私に何かあってもすぐに帰って来られないので、妻一人でも安心できるように準備しておきたいんです。」

松永 
「お子様はどちらにいらっしゃるのですか。」
藤子さん
「長女は結婚して東京にいますが、月に一度くらいは孫を連れて顔を見せに来てくれています。
長男は仕事でアメリカへ行って、あちらで結婚もしています。このご時世なかなか帰ってこれないし、一番心配なんですよ。
それから、次男は今、沖縄にいます。転勤が多い仕事だから、全国各地を転々としていて、この子もなかなか会えなくて。元気そうですけどね。」

松永 
「それはそれは。皆さんで集まるのは大変そうですね。奥様が困らないように準備したいということであれば、遺言を残されることをお勧めします。」

静男さん
「遺言ですか? 」

松永 
「はい、静男さんの財産についてお気持ちを遺言というかたちで残しておくと、お子さんが集まって話し合ったりしなくても、奥様お一人で相続手続きをすることができます。」

静男さん
「遺言って、うちみたいな普通の家でも書いた方がいいんでしょうか?うちは大した財産はないから…。モメることはないと思うけど。」

藤子さん
「そうは言っても。あなたは死んじゃっていないからいいかもしれないけれど、手続きは私がするのよ、大変じゃない。
それに、長男は「相続とか面倒なことは日本にいる家族だけでやってほしい」と言っていて、
長女は「私が一番お父さんお母さんの面倒見てるんだから、その分多めにもらえるよね」と言うんです。
次男は何を考えてるかわからないし。」
松永 
「よくある話です。「うちは財産がないから大丈夫」と思っていても、実際、モメて裁判所に持ち込まれる案件の3分の1は遺産が1000万円以下のものですし、全体の4分の3は5000万円以下のものなんですよ。」

静男さん
「えー!うちも他人事じゃないということですね…」

松永  
「今、目の前にいる高橋さんご夫婦のご家庭がモメるなんて私も想像がつきません。
この穏やかなご家族を守るための遺言だとお考えいただければと思います。
何より、相続手続きが楽になるので、おすすめしたいんです。」

藤子さん
「遺言があると、どんなことが楽になるんですか?」

松永 
「まず、相続人全員が集まって話し合いする必要がなくなります
それから、相続手続きに必要な書類も、奥様一人で集めることができます。
遺言がないと、『遺産分割協議書』を作成して、相続人全員のサインと実印の押印、印鑑証明書の提出も必要になります。
また、海外に居住されているご長男は、印鑑証明書がないので、現地の領事館等でサイン証明の取得が必要で、お手続きは通常よりも更に大変になると思います。」

静男さん
「そうか… 聞いただけで頭が痛くなりそうです。遺言を書くこと、考えてみます。」
後日、静男さんは遺言作成のお気持ちを固めて、再度ご相談にいらしてくださいました。

AGORA相続サポートプラザにご相談にいらっしゃる方は、普通のご家庭の方がほとんどです。悲しいことですが、普通の平和なご家庭が争族になってしまう事例も、珍しくはありません。
遺言、争族なんてピンとこないわ…という方でも、一度、将来のことお話にいらっしゃいませんか?
ーーーーーこのブログ担当者 司法書士 松永梨亜
横浜市出身。結婚を機に静岡市へ。一念発起し2016年に司法書士となりました。子育てをしながら母としても司法書士としても修行中です。何かお困り事があった時、聞いてみようと思える、身近に感じられる司法書士になりたいと思っています。最後の晩餐には炊き立てごはん(納豆のせ)を食べると決めているほどのお米党です。最近は、玄米やキヌアにはまっています(にわか健康志向です)。